1997年の夏のことである、大山(当時社長、現会長)は馴染みの寿司屋で目の前の板前たちの動きを見るともなく眺めていた。板前は使い込んで古びた木製しゃもじを器用に使いこなしている。そしてあることに気づく。「しゃもじにご飯が全くくっつかない…なぜだろう…。」寿司屋が使い込んできたそのしゃもじの表面には、柔らかい木質部分が削られ木目だけが筋のように浮き出ている。ひょっとするとこの凸凹があるザラザラした表面にご飯粒がくっつかないヒントがあるのではないか。
プラスチック製のしゃもじは主力製品の一つだった、表面がツルツルしていてご飯粒がべったりとくっつくものだったが、クレームが来るようなことはなかった。しゃもじにはご飯がくっつくのが常識だったのである。しゃもじは戦後、木製からプラスチックになっていったが、ご飯が粘りつくことに変わりはなかった。
寿司屋を訪ねた翌日、早速凹凸状のモデルを作りご飯をよそってみたところ、つるりとご飯が滑り落ちた。これまでの常識を覆す発見だった。それまでのしゃもじは、表面をできるだけツルツルにきれいに光らせることが商品価値だと思ってきた。ところが、逆に凸凹上の方が、ご飯が見事にくっつかないのである。